Film.3「微睡みにて」

2/6
前へ
/28ページ
次へ
私は今、抱かれている。 快楽に、身を委ねている。 彼は会社の同僚で三つ年上。その力強い腕に私は身体を預け、ただ、溺れていく。 私は彼を好きな訳ではない。かといって、憎い訳でもない。 優しくて、気持ちが良い。 ただ、それだけ。 私は人を愛せないのかもしれないと思う瞬間。 「ハァッ、ハァッ、ま、真珠!」 彼が最後の咆哮を吐き、私の上に覆い被さった。 二人の早い息遣いが重なる。 汗ばんだ身体を投げ出すと、彼は一人バスルームへと向かった。 「ハァ…。」 まだ熱い。火照りは私を包んで流れている。 ザァー。シャワーの流れる音が聞こえてくる。 そのノイズの中、彼が何か呟いている。 聞き取れないで黙っていると、今度は大きな声で彼が言う。 「なあ、結婚しないか。」 瞬間、火照りは全て放たれた。 私に、暗い影が落ちた。 最悪の言葉を聞いてしまった。気がつけば、私は彼の求愛に何ら答える事無く、半裸のままで部屋を飛び出してしまっていた。 その微睡みは、私の居場所ではなかった。 私はまた、流れてゆく。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加