Film.1「紡ぐのは誰だ」

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湖畔にて、寝そべる。 昨夜は雨だった。 まだ、辺りは暗い。 長い闇が続く。 俺は淡く燃えている。 快楽が、愛しくて憎い。 それは、深い海の底の様に温かくて、冷たい。 けれど、忘れられない。 欲しくて、堪らない。 まだ薄暗い空に手を伸ばす。 五つの指先は、滑らかに空を泳ぐ。 雲を掴む事は出来ない。まるで、幻みたいに。 天に昇りたい。何もない所へ。 今すぐ還りたい。 暫くすると、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。 また、いつもの場所へ戻らなければならない。 仕方のない事。 それは、生きるという事。 あれから、何日が過ぎただろうか。 俺の、何が変わっただろうか。 相変わらず、欲望に振り回される毎日。 アジアンである象徴の黒い髪。細長く、荒んだ瞳。 緩む事のない薄い唇に、ありふれたスタイルの鼻筋。 捩れた耳は今までどれだけのコンプレックスをもたらせた事だろう。 誰かを顧みない言動。 協調性のない人格。 面白みのない発想に、単純な思考能力。 何より、他人に無関心である事。 そんな自分を時々どうしようもなく嫌悪する。 だから迷う。 そして躊躇う。 それでも生きている。 俺が、此処に居る。
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