Film.4「飛び交う愛、通り過ぎて」

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環希の真っ直ぐな言葉は、廉嗣がしまいこんでいる激情を沸き立たせる。 まるで勝手に侵入してくる影の様に。そして自分の全てを見透かされてしまいそうで。 抗う様に次の言葉を放つ。 「どうしてそう俺を特別視するのさ。俺は白馬に乗った王子でも、気高き孤高の芸術家でもない。普通に怒って普通に笑う。キミみたいな子が目の前にいれば、普通に欲情して抱きたいと思ったりする。そこら辺に転がってるただの石ころの一つに過ぎないよ。特別なんかじゃない。」 「……て下さい。」 俯いた環希の唇から呟きが聞こえた。 「…え?」 「抱いて下さい。」 聞き返した廉嗣を正面から直視して、今度はハッキリと言い放った。 脅す様に攻め立てたつもりだった廉嗣は、環希のその言葉に動きを封じられてしまった。 「普通に、でいいです。欲情で構いません。私を抱いて下さい。私は、あなたを知りたいの。気になって仕方ないの!あなたが、…好きなの!」 眩しい。痛い位の想い。廉嗣に抵抗する力はなかった。ただこのまま流されれば楽だと思った。 「わかった、じゃあ行こう。」 環希を促して店を出る。勇気を振り絞って脱力したのか、環希は大人しくついてくる。 俺の感情は少しずつ虚無感に侵食されていき、二人の間に会話は無かった。 タクシー乗り場にたどり着いた時、環希が俺の手を握って来た。握り返すべきだろうか。俺は俺がわからない。この正解がわからない。 ただ、この子を抱けばいいんだと思った。求められた事なのだから。
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