Film.5「もう一人のジュリエット」

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俺が精神を病み、自殺未遂を起こしてから丸四年。俺の中にもゆとりが芽生え始めているのかもしれない。 美しく咲く色とりどりの花達を眺めながら、廉嗣は中庭をくるりと周り、澄んだ空気を吸い込む。両手を伸ばして、空を仰いでみる。 少し休んで行こうか。ベンチを探して周りを見渡すと、ベンチに腰掛けようとしている人影を目にした。 「あれ…?あの子…。」 アスファルトに固いブーツの底をテンポ良くぶつけながら、廉嗣は人影へと近づいた。 「あの…、君、ええと、…ふ、古川さんだったよね。」 廉嗣が声をかけると、ベンチの上の人物はこちらをゆっくりと見上げた。 長い髪に、白い肌。蒼白い顔をしているが、元々は派手な顔のつくりなのだろう。大きな瞳と紅く艶のある唇は化粧をしていなくても印象強く映る。 彼女は読みかけていた本をパタンとたたむと、立ち上がって驚きの表情を見せた。 「寺…嶋…君…?」 彼女の長く美しい髪は、秋風に泳いでいた。 「そう。寺嶋。名前覚えていてくれたんだ。…あれ?でもこの前会った時は髪短くなかったっけ?それ、ウィッグか何か?」 彼女に席を促すと、廉嗣も隣に腰を落とした。 「ええ?…ああ、フフ、フフフッ。」 彼女は両手で口を覆い、小さく笑った。 「え?何か可笑しい?」 困惑する廉嗣を見て、彼女は優しげな笑顔を向けて言う。 「それ、姉だよ。双子の姉の真珠。私は妹の古川美花。よく間違われるんだ。」 そう言われて、廉嗣は記憶を探り始めた。 成る程、以前出会った古川には溢れる明るさがあったが、目の前にいる彼女には何処となく陰りが見える。
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