Film.5「もう一人のジュリエット」

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「ああ、そうか。双子だったんだ。中学の卒業アルバムを見てみたんだけど気づかなかったよ。あんまり接した事なかったよね。」 廉嗣のその言葉に、一瞬表情を凍らせた美花だったが、再び笑顔で話し始めた。 「うん…。私、病気がちで、あまり登校出来なかったんだ。でも、二年生の時、私達同じクラスだったんだよ。覚えてない?」 廉嗣は頭を掻きながら、申し訳なさそうに答えた。 「えと…、ごめん。正直あんまり覚えてない。というか、俺、中学の頃の記憶自体殆どないんだ。何故か。」 その廉嗣の答えに、美花は残念そうに俯いた。 「そう…。」 その姿に焦りを感じて、廉嗣は慌てて言葉を紡ぐ。 「あ、でもさ、君の顔だけは覚えてたんだ。街で会った時、いやお姉さんと会った時だったんだけど、何だかこう…ピンと来たんだ。中学の頃の友達とか、今再会しても誰だかわかんない事が多いんだけど、顔を見た時、『この子は知ってる』ってさ。お姉さんの事は知らなかったから、きっとキミの事を思い出したんだと思う。まあ、その他の事は思い出せてないんだけど…。」 いつになく饒舌になった事に気づき、廉嗣は少し照れを感じた。 彼女は何故か、安らぎを与えてくれる。 「うん…、覚えていてくれて嬉しいよ。」 少し頬を朱らめて美花が言う。顔の白さで、まるで薄く頬紅をはたいた様に見える。そんな彼女の表情は、長く動かないでいた廉嗣の感情を揺さぶっていく。 「俺、なんかナンパしてるみたいだね。そう言うんじゃないからさ。あ、そう言えば、何の病気で入院してるの?」 自分の中に生まれそうな感情を切り替えるかの様に、廉嗣は話題を変えた。確かにパジャマという姿から、入院患者であるという事はみてとれたし、病気がちという言葉から彼女がどんな病気であるのかも気になった。 それは正直、軽い気持ちだった。自身の気持ちを切り替える為の、単純な好奇心。無邪気で残酷な子供の様な言葉だった。
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