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美花は、廉嗣から目を逸らし、相変わらず美しく咲き誇る花々を見つめながら言った。
「私ね…。白血病なの。」
「は、白血病!?」
美花の発した病名は廉嗣に大きな衝撃を与えた。
白血病。不治の病ではない。ドナー登録が増えている今、どれだけ時間がかかっても適応する骨髄があれば治せるはず。けれど、途方もない時間の中、患者は日々苦しみに耐えなければならない。命に関わる重い病気である事は揺るぎない。
「正確には、『T細胞白血病』って言うの。あのね、ATLウィルスっていうウィルスがね、体の中にあるT細胞っていうのに結びついちゃって、抵抗力を奪っちゃうんだって。だから、少し風邪をひいただけでも凄く重い症状になっちゃって。まあ、エイズの親戚みたいなものなのかな。」
秋風は、少し強く流れ始め、二人を吹き流す。
廉嗣は上着を脱ぐと、そっと美花の肩にかけた。
「じゃあ、寒くなってきたから中に入ろう。」
廉嗣の上着をぎゅっと引き寄せ、まるでその匂いを嗅ぐ様に俯きながら言う。
「ありがとう、寺嶋君。」
「病室まで送るよ。行こう。」
廉嗣は美花を促して立ち上がった。
「あのさ、また、会いに来てもいいかな?」
廉嗣がそう言うと、美花は泣き出しそうな笑みを浮かべて言った。
「うん。嬉しいよ。絶対来て。」
「うん、絶対来るよ。」
二人は笑顔で見つめ合った。そして約束をした。
廉嗣が部屋を去った後、病室の窓から遠ざかっていく廉嗣の姿を見つめ続けていた美花は、ポツリと呟いた。
「…寺嶋君。私はずっと覚えていたよ。ううん、忘れた事なんてない。あなたの事も、あの日の事も。寺嶋君も、きっと思い出してくれるよね…。」
風はまた、美花の頬をくすぐりながら長い髪を宙に泳がせていた。
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