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「そう言ってくれると助かる。…選別だ持って行け」
モルグは小屋から少年の瞳と同じような深紅に輝く宝石と海のように透き通った青色の宝石を手渡し、白銀に輝く鉱石と黒く輝く鉱石を十数個布袋に入れると少年に渡した。
「その宝石と鉱石は向こうの‘世界’で役に立つだろう」
「本当に何から何までありがとうございます。で、後何分くらいですか?俺がこの‘世界’にいられるのは」
「…大体後五分というところだろう」
「そうですか…それにしても普通の人が見れば電波の会話にしか聞こえませんよね」
少年がそう冗談を言うとモルグは初めて険しい顔を崩し、笑顔を見せた。
「確かにな、一般人に魔法使いなどと言って誰が信じるものか」
魔法使い。過去にそう呼ばれた者達もいたが彼らが本当にそうだったかは知る由もない。だが此処にいる二人は紛れもなく本物の魔法使いだった。
二人は暫く談笑していたがやがて男が顔を強ばらせた。なんと少年の体と持っていた荷物が段々と透け始めたのだ。
「時間…か」
自分の体が透け始めたというのに少年は冷静にその事実を受け止めた。しかし、その顔には僅かだが驚きも入っていた。やはり心のどこかで否定していたかったのだろう。自分がこの世界から消えるという事実を。
その様子を見てモルグは哀しげな表情を浮かべたが、すぐに険しい表情に戻り口を開いた。
「そのようだな、向こうの‘世界’に行ったらまずはクレイルという街のローグ魔法学院という場所のマルクス学院長に手紙を渡せ。モルグからだとな。手紙はさっき渡した布袋に入っている」
「今までありがとうございました…義父さん」
「!…行ってこい息子よ」
その言葉を最後に少年はこの‘世界’から姿を消した。
それはまるではじめから誰もいなかったように。
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