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辺りの景色をを一望出来る程に高い崖にこの‘世界’に新たな命が不自然な形で入り込んだ。
それは光が集まっていき、やがて人の形を成した。先程違う‘世界’から飛ばされてきた少年、その名を天城 真といった。
シンは周りの状況を確認し、深い溜め息をついた。いくら覚悟をしていたとはいえたった一人で知り合いもいない違う‘世界’に飛ばされれば如何に強靭な精神を持った人間でも流石に精神的にクるものがあるのだろう。それに彼はまだ少年なのだから。
とはいえ荷物をしっかり持ってこれたのには安堵した。コレだけが自分が向こうの‘世界’にいたということを確認出来る証なのだから。
「取り敢えず、クレイルって場所に向かわないと…誰かに道聞かないとな」
辺りを見回すと丁度良く一つの馬車が通りかかった。見た目も豪華絢爛といった感じではなく、質素と言って差し支えないような馬車だったため、あまり身分の高い人が乗っているわけではあるまい。そう判断したシンは何を思ったか崖から飛び降りた。
「飛べ」
そう呟くとシンと持っていた荷物は重力という枷から解き放たれ、鳥のように空に浮かびあがった。もっとも鳥のように上下運動を繰り返している訳でもなく、完全に宙に浮いているのだが。
シンはそのまま馬車に近づき、馬を操っている老紳士に話しかけた。
「そこの人、ちょっといいですか?」
老紳士はシンに気付くと馬車を止め、被っていた帽子を外すと、帽子を胸に当てるとシンに丁寧に一礼をした。
「これはこれは魔法使いの方ですか。はじめまして私の名前はギルバート・エルリッシュ、しがない商人でございます」
「ご丁寧にどうも。お…私の名前は天城 真と申します」
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