真夜のサイクリング

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 前述の通り寄り道がしたくなった私は、あろうことか川向こうの町まで行った。川とは紀の川のことである。そっちの方には大変大きな本屋があり、一度一人で訪れたいと思っていたのだが、小さな私には少し遠すぎる道のりである。七国山病院ではないが『大人の足でも4、5時間』である。普通なら親と車で来る所だ。当然ながら校区外である。  何故当時の私は、よく知りもしない土地の本屋へ一人で、しかも夜中に行きたがったのかしらんと考える。おそらく現在のアンアクティブで根暗な性格からは想像もつかないくらい、挑戦的で、向こう見ずで、好奇心旺盛で、救いようの無いアホガキだったということだろう。  何はともあれ橋を渡り、魅惑のセンター街である。何もかもが近所とは違う。歩道はまるで絵画のように綺麗である。そのままスケッチして持って帰りたいほどに優雅で華麗な町であるが、目的は本屋である。本屋を探し、ペダルを漕ぐ。  夜空は濃い紺色に沈み、町は深海の面持ちに変わった。まだ車道は賑やかであった。
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