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「よし決めた」なんだか決心めいた声が聞こえた。
そう呟いた男は、おそらく私の友人だ。つまり私はそう思っている。皆がソイツを『ちっこいの』と呼ぶので、私も『(クソ)ちび』と、そう呼ぶようにしている。私が「何を」と聞く前に、ちびはこう続けた。
「こんな下らない町からね、俺は出て行ってやるのさ。絶対にだ、絶対」
「ほぉー、そうか」こんな生返事を返したわけは、この町に住む学生なら皆そう言うからだ。つまりはもう聞き飽きたのだ。
「つれないな。ついてきてはくれないのか」
「俺はこの町に骨を埋める予定だからな」窓の外を見て言う。
「下らない事を言うな。この町に何があるってんだ」ため息混じりの返答。
「あるさ、そこに水田がある」
「水田があるって?どこ?」
「後ろだ、後ろ。お前知らんかったのか?」
我々の通う中学の裏側には、青々と繁った田園風景が広がっている。3年生の高い教室からは全体像を見渡せる。秋には黄金に照り輝いて、目が眩む程に美しい。
「カッー、ペッ!田畑で腹が膨らむかよ!」
「膨らむじゃねーか」
「兎に角俺は、こんな田舎にはいたくはないね」
「そんなものか」
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