我が故郷

1/4
前へ
/13ページ
次へ

我が故郷

 私の故郷である和歌山市は“近畿のオマケ”と名高い経済力と存在感を誇る、謂わば日陰者の日陰者といった具合の、和歌山県は紀北に位置する県庁所在地である。  県庁所在地なのだから都会ではある。しかしながら、その四方は山と海に囲まれ、少し道を外れると鬱蒼とした森、そして広大な田園地帯に出る。極めつけは工場である。阪神工業地帯の恩恵を受け、この和歌山で非常に巨大な鉄工業を展開しているのが、かの有名な『住友金属工業』である。この住友のお陰で、和歌山県民は職の安定をある程度保持している。  そういう町だから、中学生の3年生ともなれば気が付いてくる。『我らの故郷は、都会なのか田舎なのか、なんだかよく分からない』という事にだ。そうなると人間とは不思議である。どっち付かずというのが非常に嫌いなようで「都会なのは良いが、交通の便が悪くはないか」「どこへ行っても山と、木と、海と、建物だ」「田舎な癖に空気が悪いぞ、工場が多過ぎる所為だ」と今に至まで、様々な観点から各位勝手な意見を申してきた。  そして何より我ら学生にとって不平不満を抱かせるのは、遊びの少ない事のようだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加