紀の川

1/2
前へ
/13ページ
次へ

紀の川

『紀の川』…和歌山市は紀伊水道に注ぐ、和歌山県を流れる一級水系の本流であり、奈良県での呼び名『吉野川』の名前でも知られている。  過去から水害をもたらす暴れん坊であった彼は、戦後からの度重なる治水によって現在の穏やかな顔つきに変わった。初めて見る者を圧倒するその水量たるや『和歌山が枯れると日本が枯れたと見てよい』と言われた程である。  下流付近には多くの橋がかけられており、私はその一つ、紀ノ国大橋をよく利用する。そこから眺める景色というのがまた爽快なもので、いくら腕を広げようと収まりきるものではない。遠近法の限界というのを知る事ができるのだ。  河川というもの達には『表情』がある。喜びとか、怒りとか、哀しみとか、楽しさとかそういうことではないのだが、いつもその日の機嫌で姿を変える、百面相とからかいたくなるような多様性を持つ。それはさながら、一枚の大きなキャンパスに青、紺、黄、白、黒、その他諸々の水彩絵の具を思い思いぶちまけたような豪快さがあり、それを優しく指先で撫で、なぞったような繊細さも併せ持つ。そして、天気や気温、太陽の角度や気持ちの持ち様でさえ、河川の機嫌として反映される。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加