48人が本棚に入れています
本棚に追加
そういえばその頃からだろうか、現実の時間を薄く感じるようになり始めたのは。
薄いというのは、その体感時間や感覚のこと。
端的に言えば、夢が充実しているあまり、現実に重点を置かなくなっていったのだ。
学校に行くこと、食事をすること、排泄すること。
義務とも言えるそれらを、ただ盲目的にこなしていくだけの日々である。
寝る間も惜しむという言葉があるが、それの逆。
起きてる時間が惜しいと、あらゆる予定を排除してまで寝るようになっていったのだ。
夢中毒とでも言うのだろう。
現実では辛いことが溢れ、飽和する。
辛いと嘆くことすら叩かれる世の中で、辛さは普通になっていく。
さも辛いことが辛くないと、自分たちを騙すように。
でも夢の中は違う。
そこでは、辛さのない快楽を自由に貪れるんだ。
男性では絶対に辿り着けないような快感の果て。
そんなのを見せつけられ、感じさせられ、求めないはずがない。
次第に夢に溶け込むことが生きる魅力に変わり、意義に変化していく。
必然。
当たり前のようにシフトしていった。
疑問は懸念する間もなく霧散する。
だから現実は薄くなった。
今ではもう、夢に入る前にどんなことをしていたのかさえ思い出せない。
全ての現実が霧掛かったように曖昧になり、まどろみへと消えゆく。
だから、この夢しかない。
夢に取り憑かれることが、生き甲斐になってしまったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!