現を見れば

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   しかしこの日は、いつもと違ってなかなか寝付けなかった。  意識してみて気付いたのだが、いつの間にか部屋のエアコンが止まっていたのだ。  止めたつもりはないが、電源ランプは消灯していて、近場に置いておいたリモコンで操作しようにも反応がない。  そのせいで非常に過ごしにくい室温になってしまっている。  加えて言えば、部屋の電気もいつの間にか消えていた。  カーテンを閉め切っているおかげで、部屋の中は薄暗い。  最中は雰囲気で盛り上がれても、今は中途半端な感じだ。  嫌だ嫌だと目を閉じ、うつ伏せに体を動かす。  だいぶ湿っぽい枕を顔に押し付け、そこで息をする。  ……臭い。  鼻を強く押し付け、形を潰して嗅がないように。  視界も嗅覚も奪ったら、触覚が過敏になってきた。  かゆい、腕が。  かゆい、股が。  かゆい、頭が首が肩が脇が胸が腹が尻が脚が足が。  頭を振るって消し飛ばす。  枕ごと振ってなかったことにする。  今日の夢は、ちょっと調子が悪い。  早く寝て現実に戻ろう。  もう一度夢に入り直せば、きっとうまくなる。  夢はそういうものなんだ。  夢は都合の良いもの。  夢はうまくいくところ。  夢は現実に繋がってない。  夢は……ここなんだ。  だから、 「――――」  おやすみ。  そう言って、私は夢に寝た。  
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