想いを巡らせど

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   始まりがいつだったかなんて記憶は、今となっては曖昧だ。  残暑厳しい初秋……あるいは梅雨明けの晩春だったか。  とにかく夏の盛りほどではないにしろ、それなりに汗ばむ季節だったように思う。  何か前触れがあったわけではない。  特に思い当たる節がないのにそれは起きるようになった。 『あ? 女に成る夢?』  過去にその不思議な現象について、友人達に訪ねてみた記憶がある。 『そんなもん誰だって見たことあるよ』  どうやらその夢自体は特殊なものではないらしい。  単に夢の中の主人公が女である場合もあるし、いわゆる淫夢として見ることもある。  それは割とポピュラーにありえる夢の種類だと、幾人かの友人達は、異口同音にそう言っていた。  だが、 『さすがに毎日はちょっと……な』  それでもこの現象の――女に成る夢を見続ける現象はどこかおかしい。 『毎日ってのがネックだよな。毎日々々、必ず同じ夢を見るなんて……普通じゃねえよな』  それが始まって以降、それ以外の夢を見ていない。  もしかしたら覚えていないだけで他の夢を見ていたのかもしれないが、覚えていないのだから定かではない。  だから見ていないのも同じことだ。  しかし同じ夢ばかり見るというのは酷く不思議な気分だ。  誰を疑うともなしに、何か裏があるのではないかと考えてしまう。  そういう夢を見させられるように強制されているのではないか。  またはそれが何かを予見する予知夢ではないのか。  勘ぐる材料なら尽きない。  しかし、都合良くそんなことがあるはずもない。  何の変哲もない、単に女に成るだけの夢だからである。  
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