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裕子は亮介の家庭教師だった。
高校三年の時、週2日、英語を教えてもらった。
そして、その一年間、憧れのような恋心があったのは確かだ。
「亮介くん、久しぶりね」
裕子が言った。
愛しい声が舞い戻る。
「…先生もご飯?」
「ううん、働いてるの。バイトだけど。ほら、言ったじゃない、カテキョー以外にも一応働いてるって」
「そうだっけ…」
嘘だ。
覚えていた。
彼女の言葉は一言一句漏らさず、亮介は覚えていた。
「それじゃ。ごめんね、仕事中」
彼女が左手を振った時、亮介はハッとした。
泣きそうになった。
薬指に、高そうな指輪。
そして、知っているはずの彼女の連絡先に、一度も連絡しなかった事に、激しい後悔が走った。
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