1章 応援団

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 瀬戸内の真ん中、福山市。全国的に名前は知られていない街でも、『それなりの規模』は持っている。中国地方だったら、広島、岡山の次ぐらい。銀行の支店何かも予想に反して結構あったりする。そんな街の山沿いに、あたし、千倉真奈(チクラ マナ)の家は建っている。  この近辺は五月の始めごろ、数日間だけ気温が三十度に近くなる。四月の最高気温は二十度と少しなのに、一週間後には気温が二十八度を越える日なんかザラ。それまで暖かかったのに、急に暑くなるのだ。自転車通学を強いられる学生にしてみれば、暑い日と雨の日ほど気が滅入る日はない。  制服は、まだ冬服のまま(たまに合服の長袖ブラウスが許可されている年もあるけど、教師陣の手が回らないのか、なかなか許可されないのだとか)。冷房なんか入る訳も無く、暑さにも慣れていないから、かなり暑い。生徒からはブーイングの嵐だ。  体育祭の応援団練習に駆り出されたら最後、火星大接近ならぬ『春の三十度大接近』の中、毎日、屋外で練習。炎天下の地獄練習のせいで汗が破裂した水道管みたいに吹き出て、その暑さは、休憩なしではやっていけない程、らしい。  ――とか言いながら、あたしは毎日これに参加する必要に迫られている訳で……。  あたしが通う高校は市内でも頭がいい方らしく、市外から通学する生徒も多い。つまり、同じ学校から来る生徒は少なくなる。それもあってか、あたしが小・中学生時代に築き上げた『友達ネットワーク』も、見るも無残なほどに効果をなくしてしまっている。  友人と呼べるのはただ一人。中学時代にずっと一緒だった水沢渚(ミズサワ ナギサ)ちゃん、ナギだけ。入学して一週間が経とうというのに、業務連絡以外でクラスメートに話し掛けられたことは一度もない。  どうしてあまりに話し掛けられないのか、原因は不明だ。  中学時代の友人(これはナギじゃない)曰く、あたしは『パッと見ジミーズ』との事。「それ何? あたしにおかしい所でもあるん?」と訊いたら、「『教室の隅で存在感を殺していそう。けど話してみたら案外普通だった人』的な……? 要は……、見た目地味」などという誠にふざ回答を寄越してきた。――――「的な?」じゃないって。  舐めんなよ、あたしのこと。
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