9人が本棚に入れています
本棚に追加
悪夢の始まりは、入学式から二日が経った水曜日のホームルームだった。
体育祭の応援団メンバーを決めている時のこと。クラスのノルマ人数まであと一人というところで、立候補がいなくなった。まだ入学式の直後、互いの出方を窺っている時期だ。相当物好きな人間でない限り、自分から手を挙げるようなことはしない。
音楽ファンの間では常識だけど、新曲は水曜が発売日に設定されている。あたしは理由を知らないけど、そうなっているらしい。よりによってその水曜は、数日前に知ったばかりの、お気に入り新人ロックバンドの新曲の発売日だった。
市内にあるCDショップとその品揃えについて脳内大討論会を繰り広げていたあたしは、ホームルームで誰が応援団最後の一人をするか、という全く別の論戦が交わされていたことなんか知る由があるはずもなかったのだ。
団員をしたくないクラスメート達が嫌そうな顔を浮かべている中、新曲のことを考えて唯一楽しそうな表情のあたしに、担任からご指名が掛かった。
後で担任に訊くと、「真奈ちゃん、そんなに楽しそうなら応援団やる?」とか何とか、まぁそんな内容だったらしい。
愚かなことに、「真奈ちゃん、話聞いてるの?」といった類(しかも怒り気味)の問いだと勘違いしていたあたしは、反射で「あっ、はいっ!」と答えてしまっていた。――高校に入学してから一度も出したことがない大声で。日曜の夕方の国民的アニメの、不気味な少女のものかと間違えかねない乾いた笑い声が、周りから漏れているのに気付いた時にはもう遅い。
あぁもう、あたしはそんなつもりで答えたんじゃなかったのにぃ……。
先に応援団入りを決め込んでいたナギが、親指を立てて、「頑張れ!」と、こんな時に何の意味も無いエールを送る。入学してからまだ三日目なのに、クラスの中でもかなり目立つポジションにいるナギは、そういう所で変わっていると思う。
そのうえ、「おっ、真奈ちゃんやる気あるねぇ。そうならそうと、最初から言ってくれればよかったのに」と担任。あーもう、生徒の気持ち分からなさすぎ。そんなんでよく高校教師が務まるわね。
あたしが睥睨すると、分からず屋の三十路担任は、どうしたの? とでも言いたげに、首を傾げる。
最初のコメントを投稿しよう!