偶然の産物

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いつもは日曜日を休みにしているのだが、不景気だからか土曜日の今日、バイトが休みになった。 生活は苦しかったが、体育会系の店長に言われたら、まぁ休まないわけにはいかない。 今日もまた、あの日のように快晴だった。また図書館へ、ではなく、今度はあの女性を見かけた公園に足を向けることにした。 僕の名前は介添悠人(かいぞえゆうと)。コンビニでアルバイトをしているしがないフリーター。 昨日、偶然にも遭遇した謎の女性のことが、不覚にも、頭から離れなくなってしまった。 不覚にもなんて大仰な言い方をしたのは、実は生まれてこの方、一度も彼女が出来たことがないからだ。 でも、僕はそのことに、変に誇りを持っている。何故なら、最近やけに男女の貞操感などが軽くなっていると思わざるおえないから……。 僕の両親は離婚している。だから幼い頃から祖母の家に預けられ、父と祖母と三人で暮らしていた。 しかし、一年ほど経ってからあの人は帰って来なくなった。 仕方なく、僕はそのまま祖母と二人で過ごすようになった。 そのとき、祖母が言った「ごめんね」の言葉は、今でも耳朶に残って離れない。それからは、両親はきっと僕のことを忘れたのだと割り切って生きた。 実際、二十三歳になった今でも、あの人は帰って来ない。連絡でさえ、一度も無かった。 別に淋しくは無かった。祖母が目一杯、愛情を注いでくれたから。でも、小学生の頃、イジメというほど酷くは無かったけど、よくからかわれた、それが今でも悔しい。 そういうことが僕の中にずっと生きていたから……子供の人生を壊すような、不幸を生むような、適当な馴れ合い、付き合いは嫌いだ……。
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