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〈SIDE:ユリウス・オルコレイ〉
「――私を殺して、神様」
僕の目の前にいる“彼女”が振り返り、そして何の前触れも無く、突然の懇願を僕に突き付ける。“彼女”がその表情に浮かべているのは、作られた笑み。僕は“彼女”の心を読める訳でもないのに、何故僕は、“彼女”の笑みが作られたものだと分かるのだろう?
それは多分、僕が“彼女”の本質を知っているからなのだろう。“彼女”はこの世界が嫌いで、加えて、僕の事が大嫌い。僕は“彼女”の事が嫌いではないが、決して好きという訳でもない。
ただひとつだけ確かなのは、“彼女”が僕の敵であるという認識。“彼女”もまた、僕の事を敵として認識しているに違いない。唯一、僕と“彼女”の間で共通している意識。だから僕はこうして、“彼女”に対する警戒心を解けないでいる。
逆に、僕を敵として認識している“彼女”が何故、僕に死を乞うのだろう? ――いや、僕は“彼女”がそう願う理由を知っている。その理由を知ってもなお、僕には“彼女”を殺す事が出来ない。殺したい、殺したくないという意思の問題ではない。寧ろ僕は、“彼女”を殺してあげたいとさえ思っている。それが“彼女”の為であり、“彼女”の願いなのだから。
――それでも僕には、“彼女を殺す事が出来ない”。出来ないのだ――。
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