序章【破壊と創造】

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  「僕は神様なんかじゃない。だから、僕には君を“殺す事が出来ない”」  言葉にして、僕は“光”の中にいる“彼女”に答えを告げた。僕の答えを聞いた“彼女”は桃色の長い髪を揺らし、先程までの作られた笑みを崩壊させてゆく。そして、絶世の美女と謳(うた)うに相応(ふさわ)しい“彼女”の表情が、ふっと曇る。  そう――僕と“彼女”は、どこまでも果てしなく続く光の中にいる。世界が、光。光の世界。光の他には僕と、朱雀(すざく)を思わせる紅が基調の服を身に纏(まと)う“彼女”――そして、ショートの銀髪が特徴的な少女がひとり、いるだけだ。  しかし、銀髪の少女は瞳を閉じて眠っており、彼女の四肢は流動する光に縛られている。言葉を発する事無く、ただそこに“存在している”彼女。少女が身に纏っている服は所々擦り切れており、黒ずみで元の色がほとんど分からないまでになってしまっている。とてつもなく長い時間、ずっとそこにいたかのように――。  僕達の頭上――少し離れた所で縛り付けられている少女を、“彼女”の紅眼がいつの間にか見つめていた。何の感情も込めず、ただ、無を漂わせながら――。 「――嘘つき」 「えっ……?」  思わず、反射的に聞き返してしまった。何せ、“彼女”は銀髪の少女を見据えながら僕に対しての言葉を発したのだから。僕に落ち度は無い筈。といっても、今“彼女”が聞きたいのは僕の弁明ではないのだろう。僕は意を決し、“彼女”と本当の意味で“向き合う”事にした。相変わらず、“彼女”の視線は銀髪の少女へと注がれたままなのだけれど――。  
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