やがて

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「そうそう!そうなのよ!里衣子ちゃんは秘書室から事業推進部に異動なの。育児休暇中に里衣子ちゃんのやっていた業務は引き継ぎ終わってるから、今日から事業推進部の打ち合わせに出てもらっても大丈夫よ。どうする?」 「…そうだったんですか。それじゃあ今日から早速そちらに参加させてもらいますね。復帰早々、皆さんにお別れの挨拶になっちゃって申し訳ありません。」 ペコリの秘書室の従業員たちに一礼をし、自分のデスクから最低限の持ち物を掻き集める。美恵子たちがデスク周りを整頓していてくれたようで、持ち物は引き出しの一番上に全てまとまっていた。 「…本当は今繁忙期だから里衣子ちゃんの手が欲しいところなんだけどねぇ。社長直々の異動命令だから仕方ないか。」 「私も社長の考えがよく分からないんです。事業推進部なんて畑違いだけど上手くやれるかしら…。」 里衣子は新しい部署に不安を感じた。新しい同僚、新しい上司、新しい仕事。事業推進部は会社の核とも言える部署だ。新たな建設計画などを提案し、莫大な売り上げが求められる。それでも成村には考えがあってのことだ。とりあえず今は従うしかない。 秘書室を出た里衣子はエレベーターに乗り、事業推進部が集まっている会議室へと向かうことにした。 *・゜゜・*:.。..。.:*・*:゜・*:.。 「お!藤宮さん…じゃなかった、成村さん!」 ノックをして会議室に入室した里衣子は事業推進部長に出迎えられた。 「途中参加になってしまい、申し訳ありません。秘書室から異動になりました成村里衣子です。本日よりお世話になります。よろしくお願い致します。」 秘書室で仕込まれたキッチリとした礼をしてから、一人一人の顔を見渡す。さすが切れ者揃いと言われる部署だけあって、皆が朗らかな笑顔でいながらも、緊張感が漂う。だがそこに社長夫人だからと嫌な目で見てきそうな者は居なかった。皆自分に自信があるのだろう。社長夫人が来たことなど気にも留めていないといった感じだ。 「新卒で秘書室なんて厳しいとこ行っちゃったね~成村さん。」 「まだうちの部署のほうが楽なんじゃない?あそこはスパルタだからなぁ。」 …秘書室出身というのは絶大な信頼を得ているようでホッとする里衣子であった。
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