やがて

4/8
前へ
/175ページ
次へ
「早速なんだけど、今全員で取り掛かっているプロジェクトに君も参加して欲しい。」 部長から資料を手渡され、里衣子はザッと目を通す。 「これは…。」 藤宮製薬との共同出資事業だった。保育所と併設した病院・薬局の建設プロジェクト。地域は子育て層が多く住むベイタウン。そこに大規模な保育所・病院・薬局を併設させるという新しいプロジェクトである。 「子供が体調を崩すとどうしても母親が仕事を放り出して、保育所から早退させなければならない。そんな日本の現状をなんとかしたいという一大プロジェクトでね。藤宮製薬からの企画なんだ。」 藤宮製薬からの…?もしかして…という思いが拭いきれない。ターゲットになっているベイタウンはまさしく里衣子と成村が現在住んでいる新居だ。上手く型にはまれば巨大な利益が期待できる。だがそれよりも… (晃志は…もしかして私の子供のために…?) 有り得ることだった。晃志はいつだって他人を考え優先させてしまう。愛娘の里衣子のことだったら尚更。自分が母親となった今でさえ里衣子は晃志への想いを捨てきれずにいた。あまりにも長い長い恋だったから。 「成村さん。君が藤宮家出身ということは全員理解している。今回のプロジェクトの橋渡しをお願いできるかな。先方さんも君が先頭に立って色々やってくれるほうが安心するだろうしね。」 「はい、わかりました。」 成村不動産としても、里衣子は使いやすい存在だろう。藤宮製薬の実質トップに簡単にアポイントが取れるし、そしてそれは決裁の速さを意味する。事業推進部としては里衣子に引っ張ってもらうと非常に助かる案件であった。 「いやぁ、楽しみだねぇ。こんなに始める前から利益が確信持てる案件はそう無いからね。」 「成村さんも、これが完成したらお子さん預けたらどう?」 皆が口々にプロジェクトについて意見する。全員が前向きなコメントだったので、このプロジェクトは非常に有意義なものなのだろう。新しい仕事がワクワクするもので始まって良かった。ホッと一安心した里衣子だった。
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1987人が本棚に入れています
本棚に追加