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あたしには朝が来ない。
日が昇って、暴力的な朝日が部屋を埋めつくしても、その光があたしの目を刺すことはない。
そういうことにしたからだ。
強すぎる光を見ることのない生活というのはなかなか快適で、今となっては以前の生活に戻ることなんて考えられない。
柔らかく濁った部屋の中、あたしはゆっくりと伸びをする。肺から押し出された空気が胸の底でくるりと回り、静かに鼻へ抜けていく。
すごく良い気分だ。
ベッドを抜けて、やかんを火にかける。朝をなくしてしばらく経つのに、目覚めた後には決まってコーヒーが飲みたくなるのが不思議だ。ただの習慣なのか、自分を飲ませようとするコーヒーの策略なのかは分からないけれど、きっと後者だろうと思う。その方が素敵だから。
そう。
世の中は、たくさんの素敵で出来ている。
みんなそれに気づいていないだけなのだ。
気づいてしまいさえすれば、不可能なことは何もない。
朝をなくすことなんて、電車に乗るより簡単だ。
ただ、信じればいい。
揺るぎなく信じればいい。
たったそれだけのこと。
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