プロローグ:ノーウェ‐電子の海にたゆたう夢‐

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 例えばこんな問いがあったとする。 「コンピュータのデータは夢を見るか?」  答えはYes。証人は僕。何故なら僕は夢を見るから。  僕の名前はノーウェ。人間じゃない。コンピュータにインプットされたデータだ。でも、データと言ってもそこらに溢れているものとは少し違う。僕には人格もあれば過去の記憶だってある。  僕がまだ人間として生きていた頃の、そしてもうほとんど麻痺してしまったけど……感情も……  僕は夢を見る。つまりそれはコンピュータのデータは夢を見ると言う事でもあるんだ。  どんな夢を見るのか?  よく見るのは一万年も昔の夢だ。  かつて僕が人として生きていた頃の記憶。例えば科学者として色々な星に出かけていた頃のことだったり……  そんな遥か昔の思い出が夢として再生される。  時には思い出すのも嫌な過去を、夢に見てしまう事だってあるけど……  夢を見るってことはつまり眠ると言うこと。コンピュータのデータも眠りにつく。でもどうして睡眠が必要なのかは分からない。  人として生きていた頃の習慣なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。  眠りにはきまって前兆がある。  最初にデータとしての認識機能がぼやけ始める。人として生きていた頃の感覚で言えば、貧血に似ているかもしれない。  頭から血の気が引いていって、視界が真っ白になっていくような。太陽さえ遮ぎってしまう深い霧の世界に、唐突に吸い込まれていってしまうような。  それが眠りの前兆なんだ。  そして次の瞬間、僕は海の中心にいる。
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