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落ち着いてすみやかに避難してください
武装した男が叫ぶ 僕のすぐ隣で 落ち着いた声で堂々と 半狂乱の人々に呼び掛けている 体のラインにぴったりと張りついた服が 銀色に輝いている
窓の外 炎に照らされてくっきりと浮かび上がる闇 すでに脱出した無数のポッドが たよりなく浮かんでいる
ノーウェ!ノーウェ!
誰かが僕の名前を叫ぶ
ノーウェ!ノーウェ!
人の流れに逆らって近づいてくる 女の人の声
エル!
僕も叫ぶ 流れる谷間から突き出した か細い腕に向かって
居住区までの隔壁を閉鎖 これ以上被害を拡大させるな!
すぐ隣で武装した男が叫ぶ 手にした通信機のパイロットランプが 緑色に点滅している
ノーウェ!何してるの?早く逃げないと
すぐ目の前にエルがいる 金色の柔らかい髪 僕を見上げる勝ち気な目は真っすぐに
白衣の襟元にはニジガエルのブローチ 僕が贈った
ほら早く!
エルが僕の手を掴む 柔らかい肌
でも彼女が走りだそうとしたのは逆の方向
エル ポッドはそっちじゃないよ
いいの 私達は私達の船で脱出するから
格納庫まで遠過ぎるよ
ポッドの食料は十日分 位相空間への転移もできない 漂流して餓死するのが落ちでしょ?
でも
ノーウェ 私達は生き残らなければならない 選ばれなかった人達のためにも
エルの目が険しく釣り上がる 奴らの侵攻 滅びゆく星 最後の抵抗 方舟計画
僕もエルも 家族を残したままこの船に乗り込んだ
きっとみんなも格納庫に向かってるはず 私達も行きましょう
エルが僕の手を引く 細い指に込められた力
十七部隊はB棟貨物室に急げ!天使の卵が暴走している!
遠くでさっきの武装した男が叫ぶ エルに手を引かれながら僕は一瞬振り返る
天使の卵がどうしてここに?
かつての僕の研究対象
禁じられた実験 破棄されたデータ
僕は走る エルに手を引かれながら 人の流れに逆らって
男の声がさらに遠ざかって行く
天使の卵……だから引き寄せてしまったんだ……奴らを……
艦内には警報が鳴り響いている
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