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蒼天に陽光輝き、薄紅の華舞い散る、やや小高い丘からは広大な森林が臨めた。
大気には華の香が混じり、暖かい。
季節は春。
そんな、麗らかな丘の上。
呆然自失と立ち竦む男が、居た。
年の頃なら二十代後半。
漆黒の髪に黒い瞳、極一般的な日本人によく現れる色彩を男は纏っていた。
黒渕眼鏡の向こうの黒い瞳は些か切れ長、と形容するよりは鋭い、若しくは悪いと言う方がしっくりきた。
その細みの面には高い鼻と薄めの唇が完璧な位置に配置され、背はすらりと高く、恐らく成人男子の平均身長を上回るだろう。
逸そ嫌味な程、しなやかについた筋肉は美しかった。
その身を包むのは、余り回りの風景に合わない、黒地にストライプのスーツと白衣だ。
十人中九人は振り返るだろう美丈夫だった。
ただ惜しむらくは彼が、
「え、何処だココ?何で秋に桜咲いてんの?つか、いつの間に学校が大自然に還ったんだ?」
良い年して残念な迷子と言うことだった。
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