プロローグ

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男の名前は桜川吉良。 とある私立高校の養護教諭を勤める保健師であった。 所謂、保健室の先生と言うものである。 そんな保健室の先生が、何故白衣のままで大自然のど真ん中に居るか、と言うと…数十分前まで遡る。 平日である今日、吉良は当然の事ながら仕事をしていた。 と言っても然して大きな問題もなく、体調不良の生徒を看護したり、生徒の悩み相談を聴いたり、保健室便りを作成したり、書類整理をしたりと言ういつも通りの業務だった。 そして放課後。 そのまま何事もなく終わると思っていた矢先、問題は…降って沸いたのである。 「さてと、時間になったし…帰るとしますか~」 最終下校のチャイムが鳴ったので本日の業務は終了。 出していた書類等を片付けて、保健室の戸締まりをする。 後は鍵を職員室へ返して帰るだけ。 今日の晩飯何にすっかな~…なんて一人言を言いながら、薄暗い黄昏時の廊下を歩く。 「桜川先生」 ふと、声を掛けられる。 吉良が振り返ると其処には一人の女生徒がいた。 今時珍しい膝丈のプリーツスカートに制服を着崩さず着用している事から、真面目そうな娘だと印象を受ける。 「どうした?」 吉良が声を掛けるとふわりと笑った。 …気がした。 と言うのも、およそ三メートル程離れた距離に居る女生徒の顔は判らなかったからだ。 黄昏時、誰そ彼刻。 窓を背にした女生徒の顔は逆光により見えなかった。 吉良は目を眇め、手で光を遮る。 容赦無く照り付ける西陽にあまり意味は無かったが。 「お願いがあるんです」 女生徒は鈴を転がす様な声音で言った。 「お願い?何だ?」 別に生徒に何かを頼まれるのは珍しい事ではない。 吉良は特に疑いもせず続きを促す。 「世界を救って下さい」 「は?」
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