46人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
男の名前は桜川吉良。
とある私立高校の養護教諭を勤める保健師であった。
所謂、保健室の先生と言うものである。
そんな保健室の先生が、何故白衣のままで大自然のど真ん中に居るか、と言うと…数十分前まで遡る。
平日である今日、吉良は当然の事ながら仕事をしていた。
と言っても然して大きな問題もなく、体調不良の生徒を看護したり、生徒の悩み相談を聴いたり、保健室便りを作成したり、書類整理をしたりと言ういつも通りの業務だった。
そして放課後。
そのまま何事もなく終わると思っていた矢先、問題は…降って沸いたのである。
「さてと、時間になったし…帰るとしますか~」
最終下校のチャイムが鳴ったので本日の業務は終了。
出していた書類等を片付けて、保健室の戸締まりをする。
後は鍵を職員室へ返して帰るだけ。
今日の晩飯何にすっかな~…なんて一人言を言いながら、薄暗い黄昏時の廊下を歩く。
「桜川先生」
ふと、声を掛けられる。
吉良が振り返ると其処には一人の女生徒がいた。
今時珍しい膝丈のプリーツスカートに制服を着崩さず着用している事から、真面目そうな娘だと印象を受ける。
「どうした?」
吉良が声を掛けるとふわりと笑った。
…気がした。
と言うのも、およそ三メートル程離れた距離に居る女生徒の顔は判らなかったからだ。
黄昏時、誰そ彼刻。
窓を背にした女生徒の顔は逆光により見えなかった。
吉良は目を眇め、手で光を遮る。
容赦無く照り付ける西陽にあまり意味は無かったが。
「お願いがあるんです」
女生徒は鈴を転がす様な声音で言った。
「お願い?何だ?」
別に生徒に何かを頼まれるのは珍しい事ではない。
吉良は特に疑いもせず続きを促す。
「世界を救って下さい」
「は?」
最初のコメントを投稿しよう!