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彼女は死のうとしていた。
錆び付いたブランコに腰掛けながら、あの空に溶け込みたいね、なんて言って、まだ辺りを照らす太陽の方向を指差して、微笑んだ。
そんな彼女の横顔を見てると、僕は何も言えず、ただ地平線へと消えていく太陽を見た。既に夕方になっていて、人ひとりいない公園の風景は、すごく寂しく思えた。
小さな擦れた金属音を出しながら、緑のメッキが剥げたブランコが揺れた。
何も言えない僕が、ただただ弱く思えた。
頑張っている人に頑張れ、と声をかけるのは駄目だと聞いたことがある。果たしてそれが、今当て嵌まるのかどうか。
オレンジ色の風景を追い立てるようにして、闇夜がじわじわと空を侵食していく。
――あぁ、彼女の心が。
先の見えない洞窟のように暗く、得体の知れない恐怖が沈む海底よりも深く。
恐ろしくなった。言いようのしれない恐怖が僕を襲う。背筋にミミズが這うような感覚だった。
どうすれば、彼女を救えるのだろうか。
黄昏れた空を仰いだ。弱々しい光を繊細に放つ星を見つけた。
彼女の心が空だとしたら――。
この先は言わなくたっていい。
僕は彼女の手を取り、半ば無理矢理に駆け出した。勢いよく立ち上がったせいか、背後で揺れる二つのブランコが、ぎいぎいと音を立て揺れている。
これでいいのだろうか。
確信はないけれど、これで良い気がした。
了
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