【1】 始め

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   8畳程の部屋には、たたまれた敷布団と、等身大の鏡が一つ、立て掛けてあった。 その鏡の前に、一人の男が佇んでおり、鏡には空色の瞳を持った顔が写っている。目は差ほど大きくもなく、小さくもなかったが、空色に輝く瞳は、じっと鏡に写る自分を見つめ返している。 彼の名は、城島 空(ジョウシマ ソラ)。つい最近、中学を卒業した15才。 鏡は、彼の今の姿のすべてを映しており、色素の薄い髪や黒いTシャツに白い半袖のYシャツを羽織った肩は、酷く撫で肩だ。青いダメージジーンズを纏う足は、程よい筋肉質まで写している。 しかし、何が気に入らないのか、彼は静かに右拳を上げて、鏡に写る自分の顔目掛けて振り下ろす――――ものの、鏡にぶつかる直前で、それを辞めた。 拳を下げて、鏡を裏返す。 彼の顔は整っていた。しかし、彼は自分の顔が嫌いだったのだ。 そう、ぶち壊してしまいたいぐらい。 昔から、親に似て容姿が整っていた為か、外見に対する褒め言葉はよく聞いていた。このような容姿をくれた両親に、感謝はしていた。 しかし嫌いだ、この顔が。 この空色の瞳を持つ、自分の整った顔が。 彼には、双子の片割れがいる。 美男美女の元に生まれたのが、彼等双子だった。 空色の瞳を持った片割れも、きっとこんな顔になっていたに違いないのに、彼は“片割れの顔”を知らない。二卵性の双子と言えど、似てる似てると言われ続けた“片割れの顔”を、知らないのである。 知らない物を嫌いにはなれないが、どれだけ綺麗であっても、自分の、この顔は嫌いだった。 ――片割れが死んでから。   そう。 ……彼が、死んでから―― 鏡を裏返した部屋に、勢いよくドアを開いた大きな音が響く。 いきなりやってきて開ける人など、誰かぐらいは予想がついていた。 「そーらぁっ!」 「……起きてるよ?」 「まっ!!」 声を上げて飛び上がる彼女に、思わず笑みを浮かべた。 母親は、可愛らしいエプロンを身につけて、ドアの前で仁王立ちしている。見た目20代にも見えるその容貌からは、決して40代には見えない。 手にもつお玉が、部屋に差し込む朝日を照り返す。ある意味での、鬼に金棒ってこういう事だろう。 .
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