【8】 戻ることのない坂道

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【8】 戻ることのない坂道

夏休みに自転車でどこまでいけるかと小旅行。 計画も、地図も、お金も、何も持たずに。 国道をただひたすら進んでいた。 途中大きな下り坂があって自転車はひとりでに進む。 ペダルを漕がなくても。何もしなくても。 ただ、ただ気持ちよかった。自分は今、世界一早いんじゃないかと思った。 子供心に凄く遠いところまできた事を知り、一同感動。 滝のような汗と青空の下の笑顔。 しかし、帰り道が解からず途方に暮れる。 不安になる。怖くなる。いらいらする。 当然けんかになっちゃった。 泣いてね~よ。と全員赤い鼻して、目を腫らして強がってこぼした涙。 交番で道を聞いて帰った頃にはもう晩御飯の時間も過ぎてるわ、親には叱られるは、蚊には指されてるわ、自転車は汚れるわ。 でも次の日には全員復活。瞬時に楽しい思い出になってしまう。 絵日記の1ページになっていた。 今大人になってあの大きな下り坂を電車の窓から見下ろす。 家から電車でたかだか10個目くらい。 子供の頃感じたほど、大きくも長くもない下り坂。 でもあの時はこの坂は果てしなく長く、大きかった。 永遠だと思えるほどに。 今もあの坂を自転車で滑り落ちる子供達がいる。楽しそうに嬌声を上げながら。 彼らもいつの日にか思うのだろうか。 今、大人になってどれだけお金や時間を使って遊んでも、 あの大きな坂を下っていた時の楽しさは、もう二度とは味わえないと。 もう二度と、友達と笑いながらあの坂を、自転車で下る事はないだろうと。 あんなにバカで、下らなくて、無鉄砲で、楽しかった事はもう二度とないだろうと。
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