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店内に高く響くカップの割れる音。
「ごめんなさ……」
あの日、マグカップを買いに来ていた私は、弾みである男性の手にしていたカップを割ってしまった。
と、ため息混じりに散らばる破片に手を伸ばす彼の指先に薄く滲む鮮血。
いつも自分がするように、咄嗟にそれを口に含んだ私。
「変な奴」
気付いた瞬間頭の中は真っ白。
でも、口の中に広がった微かな鉄の味と、嫌味に笑う彼の顔は今でも忘れない。
* * *
ソファでうとうとしていた私の隣には、いつの間にか彼がいた。
テーブルには、あの時割れた物と同じマグカップが二つと……空のリングケース?
左手の違和感に視線を落とせば、見慣れない指輪が薬指で光っていた。
「結婚しないか?」
呆然とする私に更に一言。
「変な奴」
それはあの日と同じ口調。
何処か嫌味に笑う顔も変わらない。
不意に重なった彼の唇が、私の紡ぐ答えの全てを優しく呑み込んだ。
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