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先程まで太陽が顔を出していた空が、今にも泣き出しそうな曇天へと姿を変えた。
――まだ降るなよ……――
家まではまだ結構な距離がある。
こんな所で雨に降られるなんてゴメンだ。
「くそ……」
だが、願いも虚しく落ち始める雨粒達。
と、独りごちて恨みがましく天を仰ぐ俺の背中を、誰かが追い越して行く。
それは一本の日傘を手にしたあの子だった。
「これ、使って?」
不意の声音と共に、それが俺の視界を遮る。
「日傘……?」
「な、無いよりマシでしょ」
若干面喰らう俺から、彼女は気まずそうに視線をそらした。
幸い雨はまだ小降りだ。
「ありがとう」
苦笑混じりに傘に手を伸ばしたその時。
「私も、一緒に入っていいかな……」
俯き、今にも消え入りそうな声で言う彼女は余りに愛し過ぎて……。
抱き寄せた弾みでその手から零れ落ちた日傘が、濡れたアスファルトの上で乾いた音を立てて転がった。
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