雨と日傘

2/2
前へ
/14ページ
次へ
先程まで太陽が顔を出していた空が、今にも泣き出しそうな曇天へと姿を変えた。 ――まだ降るなよ……―― 家まではまだ結構な距離がある。 こんな所で雨に降られるなんてゴメンだ。 「くそ……」 だが、願いも虚しく落ち始める雨粒達。 と、独りごちて恨みがましく天を仰ぐ俺の背中を、誰かが追い越して行く。 それは一本の日傘を手にしたあの子だった。 「これ、使って?」 不意の声音と共に、それが俺の視界を遮る。 「日傘……?」 「な、無いよりマシでしょ」 若干面喰らう俺から、彼女は気まずそうに視線をそらした。 幸い雨はまだ小降りだ。 「ありがとう」 苦笑混じりに傘に手を伸ばしたその時。 「私も、一緒に入っていいかな……」 俯き、今にも消え入りそうな声で言う彼女は余りに愛し過ぎて……。 抱き寄せた弾みでその手から零れ落ちた日傘が、濡れたアスファルトの上で乾いた音を立てて転がった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

254人が本棚に入れています
本棚に追加