誤解ってのは怖いもんだ

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ちょうど校門を越えた瞬間。 『篠村さ~ん!』 「篠村?」 遠くから篠村さんを呼ぶ声が……誰やねん、篠村。 『私の苗字です』 横で首を傾げている俺に由佳里が答える。 「あ、そっか」 由佳里の父親、 つまり俺の親父の弟は奥さんの家に婿養子に出ており、 そのため由佳里の苗字は篠村(しのむら)となっている。 ……どうも、由佳里が従妹である事を忘れがちだな。 『おはよ、篠村さん!』 『おはようごさいます、辻川(つじかわ)さん』 由佳里に挨拶をしたのは、 身長が由佳里よりちょっと大きく髪をポニーテールにした少女だった。 『あれ篠村さん、この人は?』 『私の兄です、辻川さん』 『へぇ……おにぃさんいたの?』 「どうもっす」 『兄さん、こちらクラスメートの辻川 奏美(かなみ)さんです』 『えっと、はじめまして辻川奏美です。 友達からは奏(かな)って呼ばれてます』 「村瀬 弘だ、よろしく」 由佳里の友達ができたという話しは本当のようだ。 『それでは、 兄さん、私は辻川さんと行きますので』 「おう」 『それじゃあ、篠村さんのお兄さん』 「おう、じゃあな」 『行きましょう辻川さん』 『む、奏って呼んでって言ってるじゃ~ん、ゆかっち!』 『ゆ、ゆかっち?』 『いいじゃん?ゆかっちで!』 どうやら楽しくやっているようだな ……が、奏のあの俺に対する態度は初対面特有のあれだな。 もう一度二人の背中をチラリと見た俺は教室へ向かった。
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