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遥か高い位置にある、あの小さな天窓から見える景色はいつも同じだ。
月と―――、闇。
あの日と同じ。
俺がすべてを失った、あの夜と………。
「……また、その歌か。」
ふと、膝の上から低くて良い声がする。
見下ろせば表情では解りにくいが、不機嫌そうな空気を纏わせて
彼が 見ていた。
「……そんなに恋しいか?」
でも無駄だ。
哀れだな。
「哀れで愚かだ。失ったものがそんな事で蘇るとでも……?それとも、蘇るかもしれないという、お粗末で卑小な希望に縋りたいのか?………無駄な事だ。」
「お粗末」……って、こいつが言うとなんか違和感だ。
ウルキオラは傲慢というか冷酷な口調だが、言葉遣いは綺麗だから。
俺のが移ったかな。
「……何を考えている?」
緩慢な動作で起き上がり、じっと見詰めてくる。
光も、温度も感じさせない瞳。
まるで夜の海のようで底の無い闇が、そこから覗き込んでいるみたいで落ち着かない。
胸が騒ぐ。
「……誰の事を、考えている?」
伸ばされた白い手が頬に触れて、白い指に力が篭る。
爪が立てられて血が滲む。
誰の事………だって?
お前に決まってるだろ、十刃(エスパーダ)のウルキオラ。
お前はあの日――俺が初めてこの地を訪れたその日に、俺の仲間達を皆殺しにしたんだ。
屍さえ残さなかった。
みんな塵にした。
あの時の俺の怒りがわかるか?
痛みが、悲しみが。
燃えるような憎しみが。
「……………お前の事、だよ。」
ぴくり、と頬に食い込む爪の先が震えた。
虚(うろ)のような瞳に微かに何か過(よ)ぎる。
………お前にはわからないだろう。
この俺の苦悩が。
すべてを奪われてあるべき場所にも帰れず。
自由を奪われ。
まるで飼い犬のようにすべてをお前に握られて。
お前以外の存在も知らされず。
いつも、この深い闇の底のような鳥籠に置き去りにされる
俺の気持ちなど。
「お前の事だけだ。ウル………」
どうして予想出来ただろう。
こんな自分を。
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