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「ただいま」
「おう」
「何か手伝う?」
「いや……今はいいわ」
店から帰ってきた僚に、厨房の拳は嫌な顔をせず答えた。
部屋に上がった僚は、ギターを片手に居間へと降りてきて、ぼんやりと窓辺に座る。
そして、澄みきった空に浮かぶ満月を見上げながら、ギターの弦を弾いた。
『ねぇ僚――』
聞き慣れた声に居間の中に顔を向けると、洗濯物を畳み、微笑んでいる優がいた。
『あんた、いつかステージに立って、母ちゃんと父ちゃん、招待してくれるんでしょう?
やっぱり武道館よね?!
――でもまぁ、市内の公民館でも、駆けつけるからさ、ちゃんと、特等席用意するんだよ』
静かに笑みを浮かべる僚の目に、また、別の日の優が思い浮かぶ……。
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