Mission army

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広い敷地内に柔らかい絨毯のように芝生が敷き詰められている。 庭に配置された色とりどりの花と立派な樹木が豪奢な邸宅と相まって高価で気品のある佇まいを持たせていた。 この地方では王様のような権力を持つある金持ちの住まいである。 その広い敷地内で庭師が芝生を刈っている。 のどかな夏の昼下がりであった。 「すいません、トイレを借りたいんですけど」 会社のネームが入った紺色のYシャツを着た短髪の庭師がうやうやしく門番に尋ねる。 「構わんよ。好きに使え」 門番がそっけなく答えた。 「ええと、お宅様は初めてもんでちょっと場所が…」 「ああそうか」 いそいそと姿を消した庭師を見届けると門番は仕込みマイクに囁いた。 「ターゲットの行動開始を確認。現在A5地点を通過」 男の耳にはまっているイヤホンから返答が返って来た。 「装備は?」 「丸腰です。入宅時のボディチェックは完璧。奴の今日の仕事は芝刈りのみ。遮蔽物の無い状況下での監視においても不審な行動はありませんでした。」 「OK。後は我々が処理する」 数秒の後、庭師の向かった先からパスパスと空気銃のような発射音がした。 サイレンサーか。 躊躇わず迷いなく銃で人を撃つ刺客に恐怖と多少の嫌悪感を覚えた。 馬鹿な奴だ。 怪盗だか何だか知らないがこの家の金を狙うって事はな、頭から血をかぶってサメの群れに飛び込むのと同じなんだよ。 ささくれた門番の心を癒すように鳥のさえずりが聞こえた。 何気なく腕時計に目をやる。 こんな時間か。 門番はもうすぐやって来る交替の者を静かに待った。
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