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来る時はあんなに一生懸命走っても遠く感じたのに、帰り道は驚くほどあっという間。
「ごめんね、こんな遅くに呼び出して」
「いっ、いえ大丈夫です!」
千明先輩と、一緒だからかな。
徒歩二分の距離がちょっと恨めしい。
夜の道はとても静かで、どこからか聞こえる虫の音が音楽を添えた。
団地の家明かりも、もう半分ほどが消えてしまっている。
あーあ、うちの明かりが見えてきてちゃった。
両隣の家はもう明かりが消えているのに、煌々と電気がついている我が家。
だけどそれは、家族が居るっていう証拠だから……少し嬉しかったりもする。
「ひよこちゃん、夏休み何してる?」
ゆっくりと家に近付く中で、先輩がふと思いついたように尋ねかけた。
それと同時に足が止まる。
「保育実習がある以外は、特に何の予定もなくて……毎日恭平に付き合わされてます」
先輩に会えないから、夏休みはつまらないです。
「じゃあ、時間が空いた時は連絡する。せっかく長いお休みなんだから、いっぱい遊ぼうな」
にこにこと嬉しそうな顔をして、ぐりぐりとわたしの後頭部を撫でまくる先輩。
なんかもう本当にムツゴロウさんだ。
「せ、せんぱいっ、髪の毛がぐしゃああってなりますっ、もっとお手柔らかに……!」
髪の毛が細くて柔らかいから、すぐ鳥の巣みたいになるんだよー!
「いいよ、可愛いから」
先輩、その一言がそれだけ威力があるか知らないでしょう。
「そんなんじゃ、騙されません……っ」
もうまともに顔もみられないくらい、どきどきしちゃうんです。
よく考えたら、これだけ周りが暗いなら顔が赤いことなんてバレないんだろうけど……それでもやっぱり目を逸らしてしまう。
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