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この空気を感じ取ったのか、それともたまたまなのか。
「陽菜ちゃん、だーいぶ俺に慣れてくれたよね」
太陽のような笑顔を作った千明先輩は、気持ちを切り替えるかのようにわたしに笑いかけた。
あの時、夕陽の向こうで見た太陽。
焦がれた胸が、またじくじくと痛み出す。
千明先輩の笑顔は、もう一度わたしをふわふわと浮かせてしまうのだ。
なんて単純なわたしなんでしょうか。
「千明先輩は、話しやすいから……」
慣れたというか、興奮が収まってきたというのが本当のところだけど、千明先輩がすごく話し上手なのも本当。
相手を不安にさせない喋り方や、ちょうどいい間合い。すごく、女慣れしてると思う。
「男子恐怖症って、急になったの? それとも、もうずっと?」
「あ、そ……うですね。ずっと、です……」
いきなり核心を突く話題を振られたから、慌てた。
だって、男性恐怖症でもなんでもないんだもの。
「そっかぁ……。なんか、俺たち似てるかも」
いえ、全く似てませんよ。太陽と豆電球じゃないですか。
冗談かと思ったら、当の本人は神妙な顔つきでこっちを見ていたから、
『実はそれは誤解でテンパると興奮しちゃうんです。ソーリーソーリー』
という、わたしのちょっとお茶目な一面を見せつつカミングアウトをする一石二鳥な機会は、永久に失われてしまった。
「あ、だから幼教入ったの? あそこ男いないもんなー」
いいえ。ありがたいことに、ピアノだけは幼少期から習っていたので、実技もパスできると思ったからです。
「恋愛とか、やっぱり躊躇しちゃう? 男は全員怖い?」
いえいえ。どこまでも突き進みますよ、わたしは。
「俺と、恋愛してみない?」
はぁ?
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