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わたしを男性恐怖症だと勘違いしている千明先輩の質問に「あぁ」とか「うう」とか答えていたら、とんでもない質問にぶち当たってしまった。
目の前にいる(部屋の隅と隅だけど)憧れの人が『俺と恋愛しない?』って……
「い、みが……」
喉の奥が張り付いたみたいに乾いてしまって、掠れ声で尋ねるわたしを遮ったのは、千明先輩。
「っても、本当の恋愛じゃないというか……練習っつーか。なんというか……」
眉を寄せたり離したり、唇を噛んだり。
しばらく顔中で複雑な心境を表していたけれど、パッと顔を輝かせて、
「そう、リハビリ! お互いに恋愛できるようになる、リハビリ。陽菜ちゃんも、俺なら大丈夫みたいだし、二人で恋愛できるように頑張ってみない?」
俺、すっごくいいこと言ったでしょ? 褒めて!
という顔をしていた。
先輩は、わたしを男性恐怖症で恋愛ができない子だと思っている。
先輩も、たぶん何か理由があって恋愛ができない。
「あの……わたし……っ」
言わなきゃ、今。本当は違うんですって。
嘘ついててごめんなさいって。
白い壁にもたれた彼の顔は優しげに笑っているのに。
「俺の、リハビリ彼女になってくんない?」
瞳に宿るのが、深い悲しみの色じゃなかったなら……きっと本当のことが言えた。
――なんて。
「いいですよ、千明先輩」
そんなの、ただの言い訳。
(Rule1.夕焼け、金色の向こう側)
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