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「……っていうのが、今日一日の出来事なんだけどね。真希ちゃん」
「長いわ! 今日一日どころか二年半前から遡ってんじゃん。それから、二重ツケマのことは言うなって言ってるでしょうが」
ハート型のテーブルの上で、ネイルを塗りながらわたしの話を聞いてくれていた真希ちゃんの指は、十本全てピンク色に変わっていて、ついでに両足も綺麗に塗られていた。
さらに言うと、なんか色々とデコレーションまで施されていた。
「で、これが、その家宝のソナタなんだけど……」
「ちょっと、聞いてんの!?」
いつ来ても、ピンクとキラキラに囲まれている真希ちゃんの部屋。
その部屋の主は、浮かれた声で電話を掛けたわたしを、とってもとっても(ここ大事!)快く自宅へ招き入れてくれた。
真希ちゃんの二重つけまつげは、今日も絶好調。
ラインストーンでキティちゃんを模した、真希オリジナルミラーを机の上で開いて、残り少なくなったポッキーに手を伸ばした。
「なんかさー、怪しくない? 陽菜がドリーマーでポエマーな痛い子なのは今に始まったことじゃないけど、千明くんも相当変わってるよね。初対面の人間に『リハビリ彼女になって』とか。これ、イケメンじゃなかったら、叫ばれて通報されて逮捕されても仕方ないっしょ」
小気味良い音を立てながら短くなっていくポッキーを見ながら思い出すのは、一瞬だけ垣間見た、あの憂いを帯びた瞳の色。
「真希ちゃん。千明先輩の中にはね、月が眠ってるんだよ」
「は? バカじゃないのあんた。あたしの話聞いてた?」
ちょっとお口が悪いのも、真希ちゃんの可愛いところ。
専門学校に通いだして、髪の毛を金に近い明るい茶色にした肩まで伸ばしたストレートの髪を、太めのコテで巻き始めた。
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