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「リハビリ彼女って、どうすればいいんですか?」
翌日。大学の食堂で向かい合ったわたしと千明先輩は、四人掛けのテーブルを二人で占領してしまっていた。
何故ならば……
「んー、どうしよっか。とりあえず、ひよこちゃんは男に慣れることから始めないと。そんなに難しく考えなくていいよ。こうやって一緒にご飯食べたり、話したり……たまには遊びに行ったり? 超プラトニックなお付き合いみたいな感じ」
手を動かしながら、口も動かしている千明先輩が、カレーと牛丼とラーメン、それから麻婆豆腐を同時に食すという荒業をやってのけているからである。
まだお昼には少し早い時間で、人影はまばら。
空きテーブルに囲まれた中央付近で一心不乱にがっつく姿は、昨日のレッスン室の先輩と、ちょっと違う。
あまりにも砕けたその雰囲気は、ガチガチだったわたしの緊張をあっけなく解いてしまった。
「先輩。もしかして、三日ぶりの食事とかなんですか?」
「まっさかぁー、今朝超美味い朝ごはん食べてきたよ。お米食べろ! って修造が言うから、最近ずっと和食」
なぜ、ここで修造が出てくるんだろう……。
先輩の会話は、時々すごくぶっ飛んでいるから返事に困る。
だけど、お箸とスプーンを器用に使い分けながら、ものすごいペースで器の中身を胃の中に収めているように見えて、間違えてカレーのスプーンをラーメンの汁に突っ込んだりしてしまう自分にこっそりショックを受けてたりする先輩を見るのは、面白い。
しかも、すごく美味しそうに食べるから、思わず自分の食事まで差し出したくなってしまう。
餌付けか……悪くない。
「ここに手付かずのゼリーが余ってるんですけど……食べます?」
デザートに残しておいたグレープ味のゼリーを、つつつとテーブルの真ん中まで滑らせると、にひっと覗く八重歯。
「食べる食べる食べる! ひよこちゃん、超いい子!」
か、可愛い……!
なんなの、この可愛い生き物。
ゼリーひとつでこの笑顔。先輩……安すぎです!
「さぁさぁ、たんと召し上がれ」
わたしの顔があんぱんだったら、『ぼくの顔をお食べ』って言ってますよ。
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