Rule2. 太陽に、うそをつく

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     上機嫌でぺりぺりとゼリーのフタを剥した千明先輩は、小さなプラスチックスプーンでひとくち掬って口の中へ。 「んまいっ! おいしいよっ、ひよこちゃん!」  形の良い瞳を嬉しそうに細めて、ふたくちめを掬う。  わたしがイメージしていた千明先輩は『好きな食べ物はパスタとピッツアかな』なんて、爽やかに言っちゃうイタリアン男子だったのだけれど……フタを開けてみればわりとどこにでもいる、普通の男の子だった。 「はい、ひよこちゃんもひとくち」  スプーンに小さく盛られたゼリーは、先輩の口の中には入らずにわたしの目の前に差し出されていて。  反応を伺うかのように頬杖をついて、意地悪な笑顔を向ける。  やっぱり、ちょっと普通じゃないかもしれない。 「いやっ、いいです! 千明先輩どうぞ」  先輩の目の前で口を開けるなんて、とんでもない!  そしてかかかか間接キスなんて、わたしのノミのような心臓が持ちません! 「これも、レッスンのうち。ね?」  甘みを含んだ声は、優しいけれど逆らうことを許さない。  硬いプラスチックが、唇の真ん中にちょこんと触れる。 「ほら、口開けて」  ハードル高すぎですよ、先輩。  こんなの、男性恐怖症じゃなくてもどきどきしちゃうじゃないですか。  極上のスマイルと、無言の圧力。それから――周りの視線。  なんか見られてる! いつの間にか周りの人に見られてる!  急かされるように唇を開くと、グッと押し込まれたスプーンから流れ込んだぶどう味。  と、スプーンの短い柄からはみ出した、指先の感触。 「ちょっとだけ、触っちゃった。ごめんね」  目尻を下げて、困ったように笑うから。 「や、ややや大丈夫ですっ」  だから、わたしはまた首を縦に振ってしまうんです。 「……何やってんだ、腐れメッシュ」  先輩の後頭部にコツンと当たるトレイと、低く落ち着いた声。  その後で聞こえてきたのは、明るく弾んで無邪気に先輩の名前を呼ぶ可愛い声。    
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