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「ちーあきっ」
背の高い(先輩には負けるけど)男の人の後ろから、ぴょこんと姿を現した小さな身体。
高いところでまとめたポニーテールが揺れて、まん丸の目がきゅっと細くなる。高くなった頬の位置は、ほんのりとバラ色をしていた。
なんて、笑顔が可愛いひとなんだろう。
「小春ちゃんっ!」
だけど、その百倍くらい可愛い笑顔の先輩は、食堂のイスから飛び上がらんばかりの勢いで後ろを振り向くと、使っていないイスをずずっと引き出した。
「どしたの小春ちゃんっ? 今日も、今にも飛べそうなくらい可愛いね小春ちゃん!」
すごい。この短時間に三回も名前呼んだ。
しかも、特に意味もなく。
お陰で、名前を覚えてしまった。
この笑顔が可愛いお方は、小春ちゃんさん。
超ハイテンションな千明先輩の態度に、微塵も驚かないところからして、これはわりと普通の光景らしい。
また、先輩の新たな一面を見つけてしまったなぁ……。
千明先輩がイスを引き出したのは、きっと“ここにどうぞ”という意味だったのだろうけれど、そのイスに小春ちゃんさんが座ることはなくて。
「白石さんのお使いで来ただけだよ。でも、今日の午後はもう仕事ないし、ちょっと見学していこうかなぁって」
緑の丸イスは、笑顔と一緒にやんわりとさりげなく元に戻された。
あれ、なんでだろう。なんでか知んないけど、悲しい。
「……そっか。てっきり俺が恋しくて会いにきたのかと思ったのにー! 俺、午後は練習しかないから、カッコよすぎるプレー観に来てもいいよ」
先輩はそんなこと全く気にしていないようで、相変わらず小春ちゃんさんを見ながらニコニコ。
さすが、女慣れしてる。
「残念ながら、俺も今日午後の授業ないから」
ぴしゃりと跳ね除けたのは、さっき先輩を『腐れメッシュ』と呼んだ男の人。
見るからに『俺、クールだぜ』って顔で、長めの黒髪でちょっとタレ目。
……なかなかの男前さん。もちろん、千明先輩には負けるけど。
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