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「せんぱ……」
「はい、千明先輩ですよ」
どうしてそんなに悲しそうなんですか?
そう言いたかったのに、
「なに? 俺の可愛い後輩ちゃん」
殺人級の笑顔に、まんまとごまかされてしまった。
「……なんでもないです。ジュース、買いに行きましょうか」
** **
わたしの好きなひとは、人気者だ。それはずっと前から知っている。
男女問わず慕われて、その中心にいるのがとてもよく似合うと思う。
フェンスの向こうから黄色い声を上げるギャラリーにだって愛想よく手を振り、時にはリクエストに応えてリフティングまで披露してしまう先輩。
自分から声をかけることなんて出来なかったわたしは、いつも同じ気持ちを抱いた女の子達に埋もれてそれを見ていた。
ほら、今も。
ネーム入りのトレーニングウェアに身を包んだ千明先輩は、四人組の女の子に囲まれて身振り手振りを交えながら、楽しそうに会話している。
もちろん、その様子を講義室の窓から眺めているわたしには、それがどういった内容の話なのかまではわからない。
もしかしたら、
『おい! 熱くなれよ! なんで諦めるんだ! はい、死んだ! 今キミの弱気死んだ! ファイヤーだよファイヤー!』
かもしれないし、
『だと、思っただろ? ところがどっこい、このミラクルサポーターがあれば……ごらん! 歩きながらトレーニングができるってわけさ!』
かもしれない。
はたまた
『なぁ……俺たちみたいなちっぽけな存在でも、地球のために何かできることがあるよな』
とかだったり?
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