Rule2. 太陽に、うそをつく

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     さっきまでの女の子達とバイバイした先輩は、しばらくひとりでストレッチした後、おもむろに手洗い場へ。  部活棟よりも、よりこちら側に近い所へ来たからどきどきした。  ここから見てるってバレたら、どうしよう。  気付いて欲しいような、欲しくないような……微妙な気持ち。  初めて見た時のようなユニフォームではないけれど、白いシャツを着た先輩は、やっぱり眩しいくらいに素敵だ。  金色のメッシュが混じった髪の毛を大きくかき上げると見えたのは、ちょっと狭いおでこ。  いつもは隠れてあまり見えないから、なんだか得した気分。前髪上げたら、幼くなって可愛いなぁ……。  わたしに見られているなんて知らない先輩は、小さく口を動かしながら(多分なんか歌ってる!)蛇口を捻ると、そのまま自分の頭を突っ込んで水洗いを始めてしまった。  真希ちゃんが見たら、思わず大事なまつげを両手で庇うに違いない。  ちゃんとしたシャワー室があるだろうに……面倒なのか待てないのか。どちらにしても、今すぐ汗を流したかったらしい。  水を止めて上半身を起こすと、プルプルと頭を振った。  犬っぽいけど、チワワじゃないな。おっきいし、髪の色からして、ゴールデンレトリバーっぽい。  タオルも何も持たずに、水浴びをしてしまった先輩。ひとしきり首を振った後、両手をタオル代わりにして、濡れた髪をガシガシ掻きまわしている。  それでも、襟足を伝う雫は、ポタポタとシャツに落ちて。  ふと、頭にやった手を止めた千明先輩の横顔が、ある一点を捉えた。  目の下からスッと伸びた鼻筋の、さらに下。  薄い唇が柔らかな曲線を描いて、口角が上がる。  それに反比例するように下がったのは、アーモンド型をした目尻。  ゆっくりと降りていく右手のひとさし指が、いつもつけているブルーのピアスに触れる。  次々と流れ落ちる水滴を拭いもせずに、力の抜けた両腕は身体の横で動きを止めた。  その横顔は優しさと、慈しみと、焦がれるような愛しさに満ちていて。   わたしのちっぽけな心臓は、ぎゅうっと締め付けられて、音を立てるように軋んだ。  千明先輩の視線の先にいるのは、笑顔の可愛いあのひと。    
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