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「ね、ね、ひよこちゃん。昨日ね、稜真くんにゴルフのメッタ打ちに連れて行ってもらったんだけどさー」
「先輩、それを言うなら打ちっぱなしです」
ゴルフのメッタ打ちは、完全に死因。
あれから数日。
わたしは何も知らない顔をして、千明先輩の隣にいる。
「え、嘘。だって稜真くんと大翔がメッタ打ちだって……もしかして、騙された?」
意気揚々と、昨日の出来事を話してくれる先輩は、無邪気というか……
「……多分」
「うわぁぁあああもうやだアイツら! 違うんだ、ひよこちゃん。俺はハメられて……いや、やらしい意味のハメじゃなくて! これは陰謀だぁああ!」
バカだ。
「せ、んぱいっ! ここ、図書室ですから、お静かにっ」
一斉に向けられた周囲の視線に、先輩は小さくすみませんと頭を下げる。
六人掛けの大きな机の上にぽてんと頭をくっつけて、向かいに座っているわたしに恨めしげな視線を送った。
「俺、バカじゃないからねっ」
「わかってますよ」
バカなところも可愛いです、先輩。
大学にいる間、ヒマさえあれば、先輩は必ずと言っていいほどわたしに連絡をしてくれる。
それは、わたしに会いたいからとかそういう甘い理由ではなく、“女といれば他の女の子が寄ってこないから”という理由だということに気付くのに、さほど時間はかからなかった。
女の子の好意を無下にできずに逃げ回っていた先輩にとって、わたしはとても都合のいい存在なのだ。
わたしが“絶対に先輩を好きにならない”から。
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