Rule3.絡まる、絡まる

6/30
985人が本棚に入れています
本棚に追加
/392ページ
    「……どしたの?」  わたしの視線に気付いた先輩が、ふと顔を上げる。  囁くような、柔らかな声。 「な、んでも、ないですっ。何読んでるのかなあって……」  本当は。  冷静なんかじゃ、ない。冷静なフリをしてるだけ。 「知りたい?」  ほら、こうやって。  からかうように目を細めて、ふわりと微笑まれるたびに、どうしようもなく実感してしまう。 「じゃー、今度はひよこちゃんの方から連絡するって約束してくれたら、教えてあげるよ。俺ばっか誘う方なんて、ずるい」  大好きです、先輩。  だけど、好きだなんて絶対言いません。 「……電話しても、いいんですか?」 「なんで? 俺はいつも、ひよこちゃんから電話がくるのを待ってるのに」  誰に恋をしていようと、かまわない。  その瞳に映っていなくても、かまわない。 「します。電話も、メールもたくさんします……っ」  だから、側に置いてください。 「うん、待ってる」  うそつきな千明先輩。  その言葉すら、うそかもしれないけれど。  「……で、何読んでるんですか?」 「んー『黒いクレヨンがなくなったら、松崎しげるを使えばいいじゃない』ってやつ」 「シュールですね……」  せめて、あなたの中の悲しい月が消えるまで。    
/392ページ

最初のコメントを投稿しよう!