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「……どしたの?」
わたしの視線に気付いた先輩が、ふと顔を上げる。
囁くような、柔らかな声。
「な、んでも、ないですっ。何読んでるのかなあって……」
本当は。
冷静なんかじゃ、ない。冷静なフリをしてるだけ。
「知りたい?」
ほら、こうやって。
からかうように目を細めて、ふわりと微笑まれるたびに、どうしようもなく実感してしまう。
「じゃー、今度はひよこちゃんの方から連絡するって約束してくれたら、教えてあげるよ。俺ばっか誘う方なんて、ずるい」
大好きです、先輩。
だけど、好きだなんて絶対言いません。
「……電話しても、いいんですか?」
「なんで? 俺はいつも、ひよこちゃんから電話がくるのを待ってるのに」
誰に恋をしていようと、かまわない。
その瞳に映っていなくても、かまわない。
「します。電話も、メールもたくさんします……っ」
だから、側に置いてください。
「うん、待ってる」
うそつきな千明先輩。
その言葉すら、うそかもしれないけれど。
「……で、何読んでるんですか?」
「んー『黒いクレヨンがなくなったら、松崎しげるを使えばいいじゃない』ってやつ」
「シュールですね……」
せめて、あなたの中の悲しい月が消えるまで。
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