Rule3.絡まる、絡まる

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     千明先輩と別れて、一日の最後の授業も終わった直後。バッグの中の荷物を確認しながら教室を出ようとした矢先、聞こえてきたわたしの名前。 「松崎……さん?」  自信無さげな様子でそれを口にしたのは、同じ学科の女の子二人組。  そうです、わたしが松崎です。  久しぶりに名前を呼ばれたせいで、ちょっと戸惑う。短くはいと返事をすると、二人はお互いにチラチラと視線を送り合いながら、歯切れ悪く切り出した。 「松崎さんって、川村先輩と知り合いなの? 最近、一緒にいるとこ見かけるから……確か、外部入学だよね?」  ああ、ついにきてしまった。  それなりに覚悟は出来ていたけれど、いざ直面してしまうと頭が真っ白になってしまって、上手な言い訳ができない。  ただ側を通り過ぎていくだけの人にも、聞き耳を立てられているんじゃないかと被害妄想してしまうくらい。  なんでもない周囲のざわつきが、ますますわたしの焦燥感を煽る。 「あ、千明先輩は……わたしの……」  わたしの、何?  リハビリ彼女なんです。なんて、言えるわけない。 「弟の友達のお姉ちゃんの幼馴染の友達、なの」  結局出てきた言葉は、嘘のような(嘘なんだけど)本当のような微妙な弁解。  だけど、彼女たちにはそれなりの安心感を与えたらしい。  微かに滲ませていた、さぐるような警戒心を解いて、ぎこちないながらも笑顔を返してくれた。 「そうなんだ。ごめんね、急に。じゃあ、また明日」  と同時に、もう用はないですよという空気も。  急ぎ足でわたしから離れ、二度と振り向かない後ろ姿を見つめながら、トボトボと廊下を歩く。  これでますます、友達を作りにくくなっちゃったな。もっとノリのいい感じで、フランクに返した方が良かったのかな。難しいなぁ……。  ロビーを抜けて外に出ると、湿った風が鼻を掠めた。空はまだ青いけれど、夕立が降るかもしれない。  少し急いで外門をくぐろうとしたわたしを、もう一度呼び止める声。 「ひよこちゃん! 帰るの?」    
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