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門までは、ほんの十数メートルくらいの距離だったのに、たったそれだけでも、擦れ違い様に受けるいくつもの視線。
千明先輩は、わたしとの関係を聞かれたら何て答えるんだろう。
そして、どうしてそんなに楽しそうにプリキュアの歌を口ずさんでいるんだろう……。
千明先輩には、謎がいっぱいだ。
わたしに歩調を合わせてくれている、先輩のシューズの音。
二人の間にあるこの距離は、これからも絶対に埋まらないだろうけれど……。
それでも、すぐ側で聞こえてくる先輩の声や同じテンポで紡ぐ足音が、こんなにもわたしを幸せな気持ちにさせるってことを、あなたは知らない。
知られちゃ、いけない。
「先輩、もうここで大丈夫です。ありがとうございました」
門を出てすぐ、多月大の名所にもなっている桜並木の前で立ち止まる。
入学した当初は、辺り一面をピンク色に染めていた花びらも、今はすっかり影を失くして新芽が顔を出していた。
「そ? じゃあ、気をつけてね。それか……」
ご機嫌のままひらひらと手を振ろうとした千明先輩の顔が、張り付いたようにフリーズすると、パチパチと瞬きを早めた。
「どうしたんですか?」
「いや、なんだろう。俺、今すんごい睨まれてる気がする。なんかものすごい敵意を感じるんだけど……なにこれこわい」
わたしの後方を凝視しながら、先輩が目で訴える。
もしかして、ファンの女の子が集団で押し寄せたとか? 困ったな、どう切り抜けたらいいんだろう。
不安に駆られながら振り向けば、
「……何見てんだブス」
高校の制服姿のまま、一生懸命イカつそうな雰囲気を醸し出そうと努力している……恭平。
何見てるって……何でここに居んのって、こっちが聞きたいよ。
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